子どもと親のためのコミュニティ広場
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透きとおる水のように
堀 里美(25) 千葉県浦安市
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夫は、北海道の旭川市の出身だ。彼の実家から、車で一時間掛からない所に、神居古潭、
と云う渓谷がある。結婚する事が決まって、顔合わせの為に田舎に帰ったついでに、連れ
て行ってもらった。
昼間だったが、人気は疎らだった。吊り橋の下を流れる河が、澄んだ空を反映していた。
「カムイコタンって言うのは、アイヌの言葉で『神様の居る場所』って意味なんだ」と、
夫が教えてくれた。確かに「神聖な」と云う言葉がぴったりの空気だった。
樹木に囲まれて、反対側には国道が通っているのに、渓谷全体が、しいん、と静謐な空
気を湛えていた。水は透きとおって清らかで、水底まで見通せそうなのに、底知れない気
がした。
吊り橋の上から、水面を眺めながら、夫が言った。
「結婚して子どもが生まれたら、こういう眺めのような人間になって欲しいと思う。清
らかで、透明で、でも深いところにはさらに秘めた美しいものがあるような」
結婚して、半年後に妊娠した。
五ケ月頃に、女の子だと分かった。私は張り切って、名付け辞典を何冊も読み、付けた
い名前を幾つもリストアップした。夫は「文系じゃないから思いつけないよ」と、謎の言
い訳をしながら、頭を捻っていた。私が思い出して、神居古潭の話をすると「ああ、そう
か、そうだった」とだけ言って、黙り込んだ。
臨月に入って、そろそろ名前を決めておこう、と云う話になった。私は既に百以上、候
補の名前をノートにメモしていた。夫が持ってきた名前はひとつだけだった。
「透水」と書いて、「ユキミ」。
「神居古潭の透きとおった水のように、美しく、静かで、底の深い娘に育つように」
良い名前だ、と思った。私の考えた百の名前全部足しても叶わぬほどに。だから、すぐ
に、それに決まった。
生まれてきた「透水」は、とても元気で、やんちゃだ。いつも男の子と間違われる。こ
れから先、名前の通り底の深い人間になってくれるように、母親として私も一緒に育って
ゆかねばと思う。
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