子どもと親のためのコミュニティ広場

藤山 恵子
一つ足りない
藤山 恵子(44) 東京都青梅市

 私は、その言葉を聞いて愕然とした。
 「けいちゃんの名前って、ミーちゃんのミを取っただけだね」
 その時、私は小学校の高学年。姉は中学生だった。隣の仲良しの高校生のお兄ちゃんが、 姉のことをボウリングに誘ったのだ。姉は二人で行くことをためらい、私を誘った。私は、 ホイホイとついて行き、この言葉を聞いたのだ。
 スコア表に名前を書きながら、なにげなく言ったお兄ちゃんの言葉。その事実にまった く気付いていなかった。
姉の名前は、美しく恵む子と書いて美恵子(えみこ)。 私の名前は、恵む子と書いて恵子(けいこ)。 確かに美しいのミの字がないだけだった。
 姉は、名前のとおりにスタイルも良く、顔もまあまあだった。一方、私は幼稚園で「チ ビ、デブ、ブス」と言われて登園拒否をして、転園した経歴を持つ。小学校を卒業するま で「前にならえ」の時はいつも、腰に手をあてていた。一度でいいから「前にならえ」を やってみたいと思っていた。ところが、中学生になるとめきめきと伸び、クラスメートの 真ん中で「前にならえ」をやっていた。デブでもなくなった。ブスとも言われなくなった。
 そして、年月は経ち30を過ぎた頃、意を決して母に名前のことを聞いた。
 「何で、こんな名前をつけたの。お姉ちゃんは美恵子で、私は恵子。お姉ちゃんの美が ないだけなんだよ。いくら、男の子が欲しかったからって、あんまりだと思わない」
 「あーら、本当ね。アッハッハッハ。気が付かなかったわ。でも、ちゃんと占師に見て もらってつけた立派な名前なのよ」
 と、名前のことにこだわり続けた私は、あえなく返り討ちにあい、トッピンシャンと幕 は閉じた。


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