子どもと親のためのコミュニティ広場

 

蒲田 ワコ
夏の二月の海
蒲田 ワコ(36) 大阪府池田市

 私の息子の名前は「夏海」という。人に名前を教えると、たいてい「夏生まれですか?」 と聞かれる。ええ、そうです、でも二月なんですけど。
 日本が真冬の二月、南半球のニュージーランドはちょうど夏の盛りである。妊娠してい た当時、私はニュージーランドに語学留学していた。フリーターだった私は、妊娠ととも に職を失い、再就職に悩むよりも、なけなしの貯金をはたいて昔からのあこがれだった海 外留学をしてみることにしたのだ。
 妊婦の私は、自分でも想像以上にタフで、ちゃんと授業もこなし、久々の学生生活を楽 しんでいた。オークランドは自然にあふれた美しい都市で、毎日何時間も散歩を楽しみ、 私は出産への体力を蓄えていた。
 そして出産予定日がせまった二日前、悠長に構えていた私もさすがにあたふたとおむつ やベビー服を購入し、アパートのシェアメイトにいろいろ助言してもらってその日に備え たのだった。
 陣痛が始まったのは、きっちり予定日の朝。そして半日間、友達や若い青い目の助産師 に支えられての「産みの苦しみ」をなんとか乗り越えた。
 やっと対面した小さな息子を、私はすぐにお腹にのせ、胎盤の血流が空になるまでゆっ くり待って、自分でへその緒を切ったのだった。
 翌朝も、オークランドの町はからっと晴れて、いい天気だった。穏やかな風の中、遠く に海がきらきら見える。日本からは遙かに遠いが、世界各地につながっている海。眠り続 ける、白いドレスに包まれた息子を膝に抱いて、私は腕をのばして叫びたいような、心を とばしてどこにでもいけるような気分でいた。そんな素敵な季節に生まれ、私にたくさん の冒険をくれた息子に、すばらしいこの季節と広がった海の呼び名をプレゼントしようと 決めた。
 「夏生まれですか?」と聞かれるたびに、
 「実は……」と答える私なのだった。


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