子どもと親のためのコミュニティ広場

嘉瀬 陽介
ボクの雄馬(ゆうま)
嘉瀬 陽介(41) 神奈川県横浜市

 「お腹の子が生まれたら名前は飛雄馬(ひゅうま) にしようね」
 女房の懐妊を知ったとき、ボクの口から真っ先に出た言葉である。子どもの頃から野球バカ だったボクは、自分の子どもが男の子だったら、飛雄馬という名前をつけようと心に誓ってい た。もちろん、熱血野球漫画『巨人の星』の主人公・星飛雄馬が名前の由来である。女房は、 「まだ男か女かもわからないのに、ばかじゃない」と、ボクに軽蔑の視線を送っていたが、ボ クとしては、極めて真剣だった。それが妊娠五ケ月を過ぎたあたりで、女房のお腹の中にいる 子どもは男の子らしいということが判明した。
 「わーい!飛雄馬だ。飛雄馬だ!」
しかし、諸手を挙げて喜ぶボクとは逆に、女房は冷静だ。そしてすぐ、ボクの耳に、
「だめ!飛雄馬なんてふざけた名前は絶対に許さない!」と、怒り心頭の声が響いた。
「だって男の子だったら飛雄馬ってずっと前から決めてたんだもん」
ボクが、むすっとして唇を尖らせても、
「ダメなもんはダメ!」と、女房。
「絶対にダメ?」
「絶対にダメ!」
ボクは、しばらく腕を組んで考え込んだあと、「じゃあ、雄馬(ゆうま) ……」と、小さな声で呟いた。
すると、ユウマという響きに、女房も悪くないと思ったらしく、「雄馬なら許す」と、許可が 下りた。
 「わーい、わーい!」
それ以降、ボクと女房は、お腹の子どもを雄馬と名前で呼ぶようになった。
「あっ、また雄馬がお腹を蹴った!」とか、
「どれどれ、雄馬は動いているかな」とか。
――思い出すと、あの頃の暖かい気持ちが蘇ってくる。


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