子どもと親のためのコミュニティ広場
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子産石
大坪 雅子(40) 東京都板橋区
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玄関の下駄箱に三つの石が鎮座している。『子産石』と呼ばれるものだ。神奈川県秋谷の
海岩から生まれることから『子産石』と言われ、その石を撫でると子宝に恵まれると言う
ものである。最も私が持っているのは、母なる海岩の近くで拾った普通の石。でも奇跡を
もたらしてくれたと信じている。
子どもができにくい。身体はどこを見ても健康体なのに、縁がない。不妊治療のため病
院の門もくぐった。妊娠しやすくなると聞き、緑黄色野菜も連日食べた。でもできない。
そんな時、この石に出会った。石を触り、お腹を撫でる。休日は秋谷へ行き、民家の軒先
に奉られている正真正銘の『子産石』を触る。来る日も来る日も石に願った。
ある日、いつものように病院へ治療しに行くと医師と看護師さんの顔つきが違う。目と
口元が微笑んでいる。「おめでとう。妊娠四週目ですよ」。妊娠。それもほぼ自然妊娠。十
年間、待ちわびたコウノトリがついに来たのだ!信じられなかった。嬉しいはずなのに、
涙が止まらない。看護師さんに「お母さんなんだから、しっかりしなくちゃ」と言われて
も頷くのが精いっぱいだった。石はその後も触り続けた。ただ今度は胎児が順調に育って
くれるようにと願いながら…。産まれた子は元気な産声をあげた男の子だった。
石と妊娠・出産、それは単なる偶然の重なりだったかもしれない。だが、私には石が、
石のあった海の神が授けてくれたように思えた。子どもは『海人
』と命名した。もちろん
人並みに海のように、ある時は優しくある時は厳しく、人の心を引きつける人間になって
欲しいという気持ちも込めている。そして私にとっては自制を促す名前。進路や稽古など
子どもへの欲が出てきた時、純粋に子どもを望んだ不妊時代、無事に産まれることしか願
わなかった妊娠時代、を忘れないための名前でもあるのだ。
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