子どもと親のためのコミュニティ広場
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出産予定日は四月。桜の花びらを運ぶやさしい春風をイメージした名前は風太。名付け
本を何冊か開いたが心の中では決めていた。
しかし、二ケ月以上早く、切迫早産で彼は生まれた。厳寒の二月、春風どころか、雪を
味方につけた北国津軽の冷たい風が真横に吹き抜けていた。目を覆うガーゼ、手足から何
本も伸びたチューブ、頑丈そうな保育器…超未熟児の彼に与えられた多くの試練。
私たち夫婦も同じ。母子センターは隣町。生まれたての子を残して、すぐに退院させら
れた妻。短い面会時間を終えて帰路に就く産後の体が、吹き荒れる風に揺れる。わが子を
抱くことさえ叶わない苦しみ。
私たち親子に立ちはだかる逆風が、とてつもなく大きく感じられた。『風』を名前に付け
てよいのだろうか…迷ったまま彼を見る。彼は生きるために戦っていた。周りに並ぶいく
つもの保育器の中には、運命と闘う小さな命。そして、24時間彼らを守り続ける看護師
さんがいた。私の隣には、母としての責任を一身に背負い、ひたすら願い続ける妻。
すべてが彼の背中を後押しする力強い風だった。彼を支える追い風がとても嬉しくて、
涙が溢れて止まらない。彼が必至に生きようとする姿は、向かい風に挫けそうになる私た
ちの背中を前へ前へと押し返す。彼もまた、私たちを勇気づける大きな風になっていた。
「風太でいいよな」「それしか思いつかないんでしょ」「ああ」
心地よい春風がつむじを巻き上げる四月、彼はようやく退院した。初めて浴びる日の光
に目を細める風太。小さな命を支え、ここまで運んでくれたみんなの風を、私はしっかり
と心に刻みつけた。
あれから十年。悩んだ時に見上げる色紙には、あの日の想いが綴られている。
「いつもやさしい春の風であれ
時に悪に立ち向かう力強い風となれ
命名 風太」
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