子どもと親のためのコミュニティ広場

荻野 ゆき
最優秀賞
月夜ニ想フ
萩野 ゆき(38) 石川県輪島市

 命のはじまりと終わりは潮の満ち干に係わると聞いた事がある。実際、満月の頃に生まれる子どもの数は多いらしい。
 或る晩、私はなんとなく眠れずに夜空を眺めていた。ふっくらまあるいお月さんがこっ ちを見ていた。程なく陣痛を覚えた。波のように繰り返しやってくる。大気圏を越えて暗 い宇宙空間をピンと張りつめた一筋の糸が私達とお月さんを繋いでいたらなんだか凄い。文明社会に暮らしていても、まだ野生の血が流れていると思うと、この子と自分が誇らし く思えてきた。無痛分娩が当たり前の国、アメリカで敢えて 自然(ふつう)のお産を迎えた。
 自然の美しさを大切に思う日本の心を願い「つき」と名付けた。ミドルネームも月の女 神からLUNA(ルナ)を頂いた。二つの国籍を持つ彼女、 大人になってこの地球(ほし)のどこからお月 さんを見上げることか。かくして、ゆき(私)、つき(次女)、はな(長女)で我家に雪月花 が揃った。
 つきのはじめての誕生日を迎えて、すすきの揺れる里山、輪島市三井町へ越して来た。 家族(みんな)(うち)を作ろうと建築家の夫が言い出した。東京で生まれ育った彼と私が「やっぱり自 然の中で子育てしてみるか」という事で出した一つの答えだ。
 あおむし、かえる、かまきり、ばった。1歳2ケ月のつきのお友達。小石、どんぐり、水溜 り。知育玩具は要りません。中でも大きなカタツムリは車の窓ガラスに貼り付けてドライ ヴに連れて行く程仲良くなった。八歳と十二歳の上の子二人もしゃがみ込み、つきの視線 に合わせて新たな発見に歓声を上げる毎日。大移住効果ありか。つきと過す時間がゆっく り流れる。誰が誰を育てているのやら。
 いつか「あの時の道端の花の色、川の水音、土の臭い」そんなものが子ども達の生きる 力となってくれたらいいなと願う。
 余談。最近子猫をもらった。じゃれては相棒のつきに時々噛みつくのでスッポンと命名。


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